Blog生産者から食卓へ · 肉と内臓 · Weston A. Price
グラスフェッドビーフはなぜ高いのか:安い牛肉の本当のコスト
グラスフェッドビーフは高く見えますが、実は穀物肥育(フィードロット)の牛肉が安く見えているだけです。工業的な畜産に隠れたコストと、価格に本当は何が含まれているのかを見ていきます。

これから始める人にとっては、グラスフェッドビーフのほうが普通の牛肉より安くて当然に思えるかもしれません。牧草で牛を育てる人には、穀物や抗生物質、肥育用の牛舎、そして現代畜産のあらゆる設備にかかる費用がないのですから。では、なぜ放牧で育てた動物の肉は高いのでしょうか。
この問いに答えているのは、獣医師の Will Winter です。Weston A. Price Foundation の機関誌に掲載された記事の中で、彼の答えは問いそのものをひっくり返します。グラスフェッドビーフが高いのではありません。工業的な牛肉が安く見えているだけなのです。
肉の本当のコスト
まず考えたいのは、誠実に育てられたグラスフェッドビーフの価格は、食用に牛を育てる本当のコストをより正確に反映しているということです。「安い」肉が安く見えるのは、工場式畜産や肥育場(フィードロット)での食肉生産に、隠れていてほとんど誰も支払わないコストがあるからにすぎません。
この70年のあいだに、還元主義の科学は、従来型の畜産農家に牛肉や鶏肉の生産コストを下げるための道具をたくさん与えてきました。成長を促す薬、人工的な飼料、そして極端な閉じ込め飼育です。工業的な生産者は驚くほど効率的ですが、その効率がもたらす思わぬ結果は、消費者と環境にのしかかります。
時間はかかり、体重は軽い
効率の差は、飼育期間、生産量、生産コストに表れます。著者による比較を見てみましょう。
- 穀物で育てた牛: 16か月齢、約590 kgで出荷できます。
- 牧草で育てた牛: ふつうは23か月齢、約500 kgで出荷されます。
- 工業的なブロイラー: 5週半で、1.8〜2.3 kgで処理され、生産コストは1ポンドあたり約1ドル(1キロあたりおよそ2.20ドル)です。
- 放牧で育てた鶏: ふつうは12週で、1.4〜1.8 kgで処理され、生産コストは1ポンドあたり4ドル(1キロあたり約8.80ドル)に達することもあります。
つまり、放牧で育てた動物は出荷までに時間がかかり、体重も軽いのです。これは牛にも、放し飼いの鶏にも当てはまります。私たちの galinha caipira(地鶏の煮込み) のレシピに使う鶏もそうです。
肥育場という生産ライン
肥育場は、基本的に工場の生産ラインのように動いています。若い牛が正面の入口から追い込まれ、数か月後には裏口から追い出されて、巨大な食肉処理場へ向かうトラックにそのまま積み込まれます。
滞在中、牛たちは安い遺伝子組み換えの穀物をシャベルで山のように与えられ、ほかにも食べ物と呼ばれるものを口にします。パン工場の残り物、菓子工場の廃棄品、そしてアメリカ政府の補助金と保護を受けているエタノール工場の残りかすです。人工的な飼料と一緒に、成長ホルモン、食欲を刺激する物質、そして治療量に満たない量の抗生物質も与えられます。
著者によれば、この飼育を終えるころには、牛は間違った飼料と薬ですっかり体を害しており、そこにもっと長くいたら、おそらく死んでしまうだろうといいます。その一方で、本来なら条件さえ整えば貴重な天然の肥料になるはずのふん尿は、有毒で危険な廃棄物となり、環境に配慮した方法で処分することができなくなります。
動物福祉や環境再生型農業を大切に考えるようになった消費者は、生産者に対して、還元主義の科学がコスト削減のために差し出す道具を手放すよう求めています。その結果、育てる側の生産コストは高くなるのです。
巨大企業の規模
肥育場の牛肉は、ほぼすべてが大企業のもので、その規模はけた外れです。人件費の差も歴然としています。放牧の牧場では、700頭の牛の群れの世話に3人のカウボーイが必要です。一方、CAFOと呼ばれる工業的な肥育場では、3人の従業員で5万頭の牛をまかなえます。
企業の牧場では利益率がぎりぎりまで低いこともありますが、それでもオーナーは莫大な配当を手にします。しかも、たいていは巨額の税制優遇まで受けています。
工場での食肉加工には、巨大な機械が使われます。機械にはほとんど人手がいらず、地域社会や小さな町もまったく必要としません。著者によれば、こうした工場は、来たばかりの移民に支えられて繁盛しています。彼らはわずかな賃金で働き、寮に住まわされ、あっという間に使い捨てにされるのです。
Henry Ford 効果
すべては規模の問題です。Henry Ford が自動車の製造コストに何をもたらしたかは、誰もが知っています。コモディティ牛肉の食肉工場はあまりにも巨大な規模で動いており、その稼働のようすは、恐ろしく、忘れられない光景です。
巨大で、騒がしく、恐ろしいこうした施設では、1頭の牛が生きたまま入ってから、冷凍肉の箱になってトラックへ運ばれていくまで、1頭あたりわずか2時間の人の労働で処理されます。小さな食肉処理場では、1頭に8時間以上の労働がかかります。
これほど短い時間で済むのは、自動化、従業員の扱いに関するゆるい規則、そのほかさまざまな手抜きのおかげです。反復性ストレス障害、低賃金の移民労働者、過剰な廃棄物による汚染、人と動物にとっての非人間的な環境といった問題は、「安い食べ物」の計算には入っていません。
誰も払わないコスト
大規模生産者の安い食べ物に隠れたコストには、穀物生産が引き起こす深刻な土壌侵食と、毎年失われる肥沃な表土、大気・水・土壌の汚染、そしてアメリカの農村部全体で農家の家族、農村のコミュニティ、小さな町が消えていくことが含まれます。農村で素朴に、誠実に暮らしを立てる道が失われたことこそが、作家の Wendell Berry に随筆「What Are People For?」(「人は何のためにいるのか」)を書かせたのです。
一方、グラスフェッドビーフの生産者は、ほとんどが小さな家族経営で、文字どおりの意味での家族農業です。こうした小さな事業者は、規模の効率の恩恵を受けられません。家族全員で牛や土地の世話をし、牧場を守っていくことも少なくありません。
そして、安定した収入がなければ生き残れませんが、その収入は大切に育てた数頭の牛だけでは得られません。利益が出れば、こうした小さな牧場は農村のコミュニティや小さな町を豊かにします。 近くで放牧で動物を育てている人を探すなら、Nu&Cru の生産者マップをご覧ください。
コモディティ:価格を決めるのは誰か
市販の牛肉がグラスフェッドビーフより安く保たれているもうひとつの理由は、それがコモディティ(規格化された一次産品)にされてしまったことです。ある商品、この場合は農産物がコモディティになると、生産者は価格を決める側ではなくなり、押しつけられた価格を受け入れる側になります。
コモディティの牛肉とこだわりの牛肉の違いはここにあります。「グラスフェッドビーフ」なら誰でも生産できますが、「Seu João(ジョアンさん)のグラスフェッドビーフ」をつくれるのは Seu João だけです。その日の相場は新聞やラジオで誰でも知ることができます(ブラジルでは、肥育牛の有名な arroba〔重さの伝統的な単位〕あたりの相場)。でも、Seu João の牛肉の値段を決めるのは Seu João だけです。これが自由市場です。自分の物語を語り、なぜその牛肉が最良の選択で、高い値段に見合うのかをお客さんに説明するのは、彼の役目です。
商品がコモディティになると、生産者は市場が決める利益しか受け取れません。その価格が生産コストを下回れば、選択肢は2つです。損を出し続ける(お金が尽きるまで)か、手を抜いてもっと安い商品をつくるか。私たちは、その両方が起きるのを見てきました。
補助金:穀物を安くする支援
さらに悪いことに、アメリカ政府はロビー活動の圧力を受けて、コモディティ穀物の生産者向けに、著者が言うところのまさに「生活保護の小切手」をつくり出しました。納税者のお金で、こうした農家は市場価格を上回る額を受け取っています。不作やほかの災害があればお金が支払われ、穀物が余っているときには、作付けをしないことに対してお金が支払われることもよくあります。
農業補助金、たとえば Farm Bill による補助金を通じて政府が負担するこの「ただ同然」の穀物が、安い牛肉をつくるために肥育場へ送られるのです。
健康へのコスト
著者によれば、放牧で育てた動物の肉では病原菌による汚染は少ないか、まったくない一方で、肥育場の肉にはほぼいつも病原体が存在しています。つまり、その肉を食べる人の健康も、本当のコストのもうひとつの項目になるのです。 工業的な食べ物が原因の食中毒すべての医療費を合計しようとする人はいません。入院が必要になる病気で、毎年数万ドルもの費用がかかり、さらに食べ物に関連する死亡が毎年数千件も起きているのにです。財団も声明 Buy Local Meat to Ensure Food Safety でこの問題を取り上げています。
さらに、動物に与えられた化学物質はすべて最終的に肉に、より正確には脂肪にたまります(動物が何を食べるかで脂肪が変わることは、記事「ベーコンは体に悪い?」でも紹介しています)。抗生物質耐性は現実の問題で、肥育場の牛に日常的に与えられている抗生物質が、その問題を大きくしています。
スーパーマーケットのマーケティング
最後に、消費者が支払う価格の多くは、小売の段階で決まります。大手スーパーは長さ16メートルの冷凍トレーラーで肉を運び込み、コモディティ牛肉の巨大な売り場をつくります。町でいちばん安い店だという印象をつくりたがるため、多くの定番商品、まさに消費者がいちばん値段を比べる品が「目玉商品」になります。ほとんど利益なしで売られる一方、ほとんど誰も値段を比べないほかの商品の価格が上がっていくのです。
著者は、精肉売り場の責任者がグラスフェッドビーフにほぼ2倍のマージンを上乗せするのも見てきました。売るのが難しく、調理法の説明に時間がかかるというのがその理由です。精肉担当者は肥育場の牛肉で訓練を受けているため、そちらを売りたがり、お客さんがグラスフェッドビーフを買うのを思いとどまらせることも少なくありません。その結果、売れ残って期限切れになり、捨てられる肉が増えてしまうことも多いのです。
生産者から直接買う人には、財団のグラスフェッドビーフの調理を成功させるためのガイドがあります。Nu&Cru には、carne de panela(牛肉の鍋煮込み)、牛スペアリブのロースト、オッソブーコなど、じっくり火を通す部位のレシピがあります。
グラスフェッドビーフは高い? 本当に問うべきこと
結局のところ、グラスフェッドビーフの生産者たちは、問いそのものを立て直すことが欠かせないと考えています。食肉産業の現実を知れば、もう誰も「なぜグラスフェッドビーフは高いのか」と尋ねる必要はありません。高くはないのです。
問うべきは別のことです。なぜ肥育場の牛肉はこんなに安く見えるのでしょうか。 少し調べてみれば、一般に安い食べ物こそいちばん高くつくことがはっきりとわかります。財団は The Real Cost of Real Food でもこの考えを掘り下げています。本物の食べ物をつくるコストをきちんと計算した、ある小規模生産者の記録です。
あわせて読みたい
Nu&Cru の記事
- ベーコンは体に悪い? 本物の選び方
- 丸鶏:1羽を余さず使い切る方法
- 庭で鶏を飼う:家で平飼い卵を
- レバー:もっとも栄養豊富な食べ物
- 骨髄:効能と調理法
- ボーンブロス:効能と作り方
- グラスフェッドビーフを生かすレシピ:carne de panela(牛肉の鍋煮込み)、オックステールの煮込み、牛スペアリブのロースト、ハンバーグ、牛ハツ
- 放牧で動物を育てる人から直接肉を買うための生産者マップ
Weston A. Price Foundation の記事(英語)
- The Real Cost of Real Food
- Achieving Culinary Success With Grass-Fed Beef
- Rolling Back The Meat Monopoly
- Buy Local Meat to Ensure Food Safety
- Princípios Atemporais de Dietas Tradicionais Saudáveis(ポルトガル語)
この記事は、Will Winter, DVM による「Why Is Meat from Grass-Fed Animals So Expensive?」を翻案したものです。原文は Weston A. Price Foundation の機関誌 Wise Traditions in Food, Farming and the Healing Arts の2016年冬号に掲載されました。英語の原文を読む
As informações têm caráter educativo e não substituem avaliação individual de profissional de saúde habilitado.



